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帆を張るやうに胸を張れ

同性愛者のサラリーマンのblog

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障碍者の家族になると云ふ事。

翼と電車に乗つてゐる時に、一人の中年の女性が同じ車輌に乗り込んで来た。
小柄で痩せ型なせいなのか、少し暗い感じのする人で、体調が良くないやうにも見えた。
翼が立ち上がつて席を譲ると、その女性はハッとしたやうな顔で翼を見た。そして翼と俺に礼を言つて、静かに座席に座つた。

二駅乗つて、俺達は女性に会釈をしてから電車を降りた。そして駅を出ようとした時、ふいに後ろから呼び止められた。

「すみません!あの、すみません。」

振り返るとあの女性が立つてゐる。

「どうしました?」

俺はさう声を掛けてから、黙つたままの女性を駅の外へ連れ出した。

「なんでせうか。」

俺は出来るだけ優しく問ひ掛けた。翼も心配さうに覗き込んでゐる。
女性はまた、すみませんと言つてから話し出した。

先日、女性の孫にあたる女の子の耳が、よく聞こへてゐない事が判り、もしかしたら、この先全く聞こへなくなるかもしれないのだと言ふ。
自分の孫が障碍者になつてしまふと云ふ事が納得出来ず、孫の母親である息子の嫁や、慰めてくれた友人にも当たり散らしてしまつたらしい。

「失礼ですけど、あなた、耳が…」

女性は翼と俺を半々に見ながら恐る恐ると云ふ感じで話し掛けた。
翼がにつこりとして頷くと驚いたやうな顔をしたので、彼は唇を読んでゐるんですと教へた。それから、仕事をしてゐる事、カナダにゐた事も話した。

「女の子ですか。可愛いでせうね。」

「はい、とても…」

女性は暫し目を閉じた。そして目を開けると、今度は真つ直ぐに翼と向かひ合つた。

「席を譲つてくれて、ありがたう。」

翼が笑顔で応へると、女性は俺にも丁寧に頭を下げてからかう言つた。

「これから孫に会ひに行くんです。駅に着いたら孫の大好きなケーキ屋さんでケーキを買つて。」

女性の背中を見送りながら、俺は心の中で女性に向かつて頑張れと声を掛けた。

これから辛い事や大変な事は、きつと山程やつて来る。
でも、敵になるのも味方になるのも、結局は自分なのだ。

「優しさうなお祖母ちやんだつたね。」

ノートにはさう書かれてゐたけれど、翼の表情は不安さうだつた。
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